残暑、20

私はこういう時、とっさに上手く喋れることがよくある。
しかし、このことをどう上手く喋れるというのだ。

心配そうな役者の顔を正面に見ながら、

「うーん、大丈夫。ただ、マスターは意外やったみたいやで。
・・・朗読をすると思ってたみたい。なんかちょっと残念そうな感じやった。」

「そうなん?」

「ふん。
しゃーないし、ちょっとだけ、そういう要素を入れるようにしょうか?マスターも喜ぶし」

「ほう。」

「じゃ、例えばここを・・・・・・」

という感じで徐々に話ながら、少しずつ変更していくことにした。
当たり前だが、信念は曲げず、自分たちの面白いこと優先で作品は発表する。
マスターにキツイこと言われたけど、出来る相談と出来ない相談がある。
少し変更したのは、単純に、初日に気になっていたところの修正と、
役者の飽きっぽい性格を見越しての構成の入れ替えで芝居の鮮度を上げるのが本当の狙いだからだ。

そして、

本番は明らかに初日を越えた。
しかし、終演後、マスターの怒りはピークに達し、
今後、出入り禁止を通達されたのだった・・・。



二日間にわたる東京公演が終わった。
彼と私にとって、大変重要な公演だった。
この東京公演がなければ、京都公演での作品作り直しには至らなかっただろうし、
この東京公演が二人の信頼関係をさらに深くしたことに違いはないだろう。


帰りの高速バスは別々だった。
私は八重洲口からのバスだ。
バス乗り場近くでおにぎりを買い、頬張る。

美味しい。

安堵感がにじみ出てくる。

ビールも買う。
これは車中で飲もう。

23時。

バスは出発した。
ビールを飲む。

美味い。

疲れにも似た、
ドッとした安堵。

車窓から、
夜の東京をボンヤリ見る。
バスの程よい揺れを感じながらボンヤリこの数日を振り返り、ビールを飲む。

大船。

鎌倉。

江ノ島。

南阿佐ヶ谷。

いったい、私は何をしに東京に来たのか。
また、東京に来る時はあるのだろうか?
いろいろ考えながら座席を深く倒す。
もうビールはいらない。

だんだん、眠たくなってきた。



おわり
(ふじもと)










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